『明智 光秀』

 『明智 光秀』 昭和33(1958)年、高柳 光寿、吉川弘文館。

 この書籍は、明智光秀の研究でしばしば参照される有名な文献の一つであるが、光秀との関係の描写の中で、数ヶ所に筒井順慶法印の名前が登場する。主に『多聞院日記』や『蓮成院記録』、『兼見卿記』などを引用しての場面である。

 この本の中で、故・高柳光寿博士は、「…そして『筒井家記』などになると、…俗書・悪書の類になると、想像でまことしやかにでたらめを書いている。」、あるいは、「…この『増補筒井家記』という本は誤謬充満の悪本…」と述べられており、『筒井家記』と『増補筒井家記』等について、歴史書としては信用できない文学書」であると指摘されおられる。

 その他、明智光秀の研究での博士のコメントには、筒井氏との関係から見た文献に絞って言えば、「明智軍記』の記事は信用できない」、「…系図纂要』…。大体はみな一致している様であるが、いずれも勿論信用はできない」、「太閤記』のような俗書…」、「鈴木叢書』所収の『明智系図』には…。この一事によってもこの系図が信用できないことはよくわかる。」、「なお諸系図』という本があり…。勿論信用できないものである。」など、とても切れ味鋭くコメントされている。


 また、高柳博士は、明智氏関連の史料にある筒井氏と明智氏との系図の接点は信用できないとされておられ、具体的には以下の通りご指摘されておられるので、ここでも取り上げておきたい。途中端折っているため分かりにくい部分もあろうかと思われるので、ご興味のある方には、高柳博士の書籍に直接目を通されることをお勧めしたい。おそらく多くの図書館でも所蔵されていると思われます。


・「明智十次郎」: 『明智軍記』では筒井順慶の養子とあるが…。

 ⇒ 「『明智軍記』には…六番目の男子十次郎は天正六年筒井順慶の養子に命ぜられた。これらはいずれも一腹であるとあり、…とある。要するにでたらめであるけれども、この書自身でも六男十次郎と十郎左衛門光近との関係がさっぱりわからない。十郎左衛門光近は妾腹のつもりであろうか。なお、『増補筒井家記』には十次郎十二歳、自然十一歳、女子九歳、乙寿丸八歳が坂本で死んだとしている。」


・「明智光秀の五女(実子だけでの三女)」・「明智十内」・「明智信教」: 『鈴木叢書』所収の『明智系図』では、五女(実子の第三子)について順慶嫡子筒井伊賀守定次妻とあり、十番目の五男の十内について筒井伊賀守定次の養子となり後に左馬助と改めたとある。また、光秀の兄弟とする明智信教に至っては筒井順慶としているが…。

 ⇒ 「ところで系図類を見ると、『鈴木叢書』所収の『明智系図』には、…女子、順慶嫡子筒井伊賀守定次妻。…十内、筒井伊賀守定次養子、後左馬助と改む、坂本城において自害。…そしてこの系図は寛永八年六月十三日に妙心寺の塔頭で六十五歳のものが喜多村弥兵衛尉というものに宛てて与えた奥書がある。しかしこの系図は何とも無茶である。例えば十内であるが、これは左馬助と改めて坂本で自害したというのであるから、明智秀満を指していると見るべきである。秀満を左馬助というのは俗書の説で、秀満は左馬助といったことはないのである。それから秀満が筒井定次の養子となったとあるのも無茶である。定次は小泉四郎と称し、光秀滅亡の当時にまだ順慶の養子になってはいない。年齢もこの天正十年には二十一歳に過ぎない。この一事によってもこの系図が信用できないことはよくわかる。他は一々その誤りを証明するには及ばないであろう。筆者の妙心寺の僧というのはこの系図の玄琳であろうと思うが、自分を光秀の子とするためにでたらめな系図を作ったもので、まことに怪しからぬ男というべきである。要するにこの系図は悪意のある偽系図である。」

⇒ 「次に光秀の同胞であるが、鈴木叢書』所収の『明智系図』には信教というものと康秀というものをあげている。この信教に註をして筒井順慶としている。順慶を光秀の弟とするなど言語道断といえる。」


・「明智定頼」: 『系図纂要』では、筒井順慶の子となすとあるが…。

⇒ 「次は『系図纂要』である。…定頼、筒井順慶子となす、自然丸、十二郎。…というように三男五女をあげている。この『系図纂要』という本はいろいろな本から採録して集大成したもので、系図として伝わって来たものではない。例えば、…。それはこの系図の編集者が史料を批判する力がなかった証拠である。他は一々説明するまでもあるまい。要するにこの系図も信用できないものである。」


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 ところで、筒井氏の系図を研究する上では、関係氏族の系図やそれらへの様々な考察も参考にしながら調査を進めたいと思う。上述の事例では、筒井氏と明智氏に系図上の接点は見出せないと言うことであるが、予断を持たずに出来る限り広くかつ慎重に確認して行きたい。

 当研究会のブログをお読み頂いた皆様の中に、衆徒や国民、戦国武将、寺社等様々な研究されている方やご興味をお持ちの方もおられると思うし、あるいは関係一族の方も。もし筒井氏との接点を持つ史料や伝承に関する情報をお持ちであれば、些細だと思われるものでも、情報をご提供をお待ち致しております。どうぞよろしくお願い致します。

筒井氏同族研究会

大和の戦国大名・筒井順慶をはじめとする筒井氏を調査研究する団体です。 一族郎党の子孫や研究者だけでなく、筒井氏に興味のある方ならどなたでも歓迎します。 筒井氏の謎を一緒に解明していきましょう。

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